言語聴覚士が行う初回評価(インテーク面接)では、言語障害スクリーニングテスト(STAD)が有効です。
- スクリーニングは、自分なりに作ったけど、これで良いのかな...
- STADを導入する前に、STAD がどんなものか、もう少し知りたいな、と考えていませんか?
本記事では、STADの導入による3つのメリットを解説します。
- 短時間で簡易にコミュニケーション機能を把握
- スクリーニングから予後を予測
- 言語機能が一目で分かる便利なツール
目次
- 言語障害スクリーニングテスト(STAD)の特徴とは?
- STAD のメリットの例|予後予測、事例紹介
このブログは、STAD開発者の荒木(医学博士)が解説します。
・受賞歴 2回(第2回言語聴覚士優秀論文賞、第21回脳機能とリハビリテーション研究会優秀発表賞)
・原著論文(英語、筆頭)1編
・原著論文(日本語、筆頭)3編
・書籍出版 言語障害スクリーニングテスト
・STAD配布累計3000部突破!
STADを使うことで、忙しい言語聴覚士の臨床の負担を軽減します。
すぐに効果的なインテーク面接に繋げたい言語聴覚士は、続きを読んでください。
言語聴覚士が行う初回評価(インテーク面接)- STAD の特徴
1-1 複数の領域を同時にスクリーニングする必要性
言語聴覚士が行う初回評価(インテーク面接)では、複数の領域を同時にスクリーニンニグする必要があります。
脳卒中後のコミュニケーション障害の種類は、複数あるからです。
- 脳損傷後のコミュニケーションに支障を生じる代表的な障害として、失語症が挙げられます。初回発症の脳卒中のうち1/3に認められます(Laska AC. 2001)。
- 構音障害は脳卒中の20–30%に発生します(Lawrence ES. 2001, Warlow C. 2008)。
- その他の高次脳機能障害(以下、高次脳機能障害)も患者のコミュニケーションに影響します。注意障害、見当識障害などの高次脳機能障害を有すると、効率的な情報のやりとりに支障がでます(Coelho CA. 1996)。発症頻度は報告によって異なりますが、39%-77%です(Patel M. 2003, Nys GMS. 2005, Riepe MW. 2004)。
以上より、脳損傷後のコミュニケーション障害の種類は、失語症、構音障害、高次脳機能障害が挙げられます。それぞれの発生頻度は決して少なくありません。
従って、言語聴覚士が行うインテーク面接では「言語」「構音」「高次脳」の3側面の機能を、同時に捉える必要があります。
1-2 STADと既存のスクリーニングテストとの違い
STADは「言語」「構音」「高次脳」を推定する、世界でも唯一の特徴のあるスクリーニングテストです。
海外では、既にいくつかの言語障害スクリーニングテストの論文が報告されています。
しかしSTADのように、複数の領域を有するものは見当たりません。
世界の各スクリーニングテストをまとめます。失語症のスクリーニングは、以下が代表的です。
- FAST (Enderby P. 1986)
- MAST (Nakase-Thompson R. 2005)
- LAST (Flamand-Roze 2011)
構音障害のスクリーニングには以下があります。
- FDA (Enderby P. 2008)
- QAD (Tanner D. 1999)
高次脳機能障害に対しては以下などがあります。
- MMSE (Mori E. 1985)
- TMT (Reitan RM. 1955)
しかし、既存のスクリーニングテストは、単独の領域が故の限界が指摘されることがあります。
(例えば、FAST(失語症スクリーニング)では、言語機能に問題が無いにも関わらず、左USNで生じる設問の失点(偽陽性)が疑問視されます(Al-Khawaja I. 1996))
STADは、言語聴覚士のインテーク面接に必要とされる、言語、構音、高次脳機能に対応する、世界で唯一の言語障害スクリーニングテストです。
その希少性について、2021年に国際論文(Folia phoniatrica et logopaedica)に明記されました(Araki K. et al. 2021)。
1-3 STADが複数領域をスクリーニングするメリット ー予後予測ー
STADが複数の領域をスクリーニングすることで、予後予測の精度は高まります。
なぜなら、言語検査が同じ点数であっても、他の側面が、保たれるか、否か、によって予後が異なるからです。
”言語聴覚リハビリテーションの初診では、
多様な神経心理学的所見を観察しなければならない”
と、Shipley(2008) が指摘しています。失語症や構音障害への高次脳機能障害の合併は少なくありません。
能登谷(1998)は、失語症の30%に高次脳機能障害が合併すると報告しています。
相馬(2014)は、構音障害の58%に高次脳機能障害が合併すると報告しています。
失語症や、構音障害の単独例に比べて、高次脳機能障害を合併する例では、コミュニケーションや、ADL・IADLの予後が不利になります。
次に、実際の症例を通して、STADのメリットや予後予測の方法を解説していきます。
STADのメリット|予後予測編、2症例の紹介
2-1 失語症の単独例|症例1のSTADスコア
STADの「非言語検査」が良好な症例は、予後は良好と予測できます。
なぜなら、高次脳機能が保たれ、状況判断が優れており、ADLやIADLの改善が期待できるからです。
症例1の病巣はウェルニッケ野がメインです。
- 脳梗塞(心原性:側頭葉~頭頂葉)
発症2日目に行ったSTADスコアは図の通り。
言語検査と非言語検査の乖離がポイントです。
低下する言語機能に対して、良好な非言語機能を表しています。
失語症の単独なので、予後は比較的良好であることが予測されます。
症例1の次回以降の診療方針を考えます。
検査計画としては、急性期を脱したらSLTAによる包括的言語検査が有効そうです。
また、非言語機能が保たれていることを確認するために、Kohs立方体や、RCPMも検討できそうです。
その他のディープテストも検討できるでしょう。
症状が教科書的なので、実習生に担当してもらうのにも良さそうな症例です。
【実際の予後(転帰先)】
やはり経過は悪くありませんでした。
急性期の治療を終えると早期に自宅退院となり、STは外来にて継続となりました。
2-2 失語症に高次脳機能障害が合併する例|症例2のSTADスコア
STADの言語機能の低下に加えて、非言語検査も低下する例では、予後は不利だと予測できます。
高次脳機能障害を合併すると、状況判断が不十分となり、ADLやIADLアップの支障となるからです。
症例2の病巣は、症例1とほぼ同じ部位、同じサイズのウェルニッケ野に加え、陳旧性の脳出血が反対側の前頭葉にあります。
■脳梗塞+脳出血
- 赤:左の側頭葉-頭頂葉の心原性脳梗塞(今回)
- 青:右の前頭葉の陳旧性脳出血(1年前)
発症3日に行ったSTADでは、言語検査と非言語検査は両方とも低下しています。
失語症に加え、高次脳機能障害の合併が伺えるので、予後は不利だと予測できます。
症例2の次回以降の診療方針を考えてみます。
言語検査と非言語の低下のため、STAD以外にできる検査は限られます。
SLTAは優先度ではないでしょう。
机上の訓練教材においても、適応できるものは少なそうです。
両側の大脳損傷であることを踏まえると、仮性球麻痺性の嚥下障害が疑われます。
急性期では経口摂取への対応が急がれるでしょうか。
【実際の予後(転帰先)】
急性期の治療を終えても自宅退院は困難でした。
回復期リハビリテーション病棟へ転院となりました。
2-3 コミュニケーション機能を把握する便利なツール
予後予測を含め、コミュニケーション機能を把握するには、STADアセスメントシートが有効です。
コミュニケーションの概要が一目で推定できるからです。
上記では、症例1のほうが、症例2よりも予後は良好であったことを確認しました。
両者のプロフィールを見比べると、症例1の言語検査と非言語検査の乖離が分りやすいですよね。
STADアセスメントシートは、STAD記録用紙についてきます。
STADの結果をプロットして、症例の経験を重ねていくと良いでしょう。
まとめ
- 言語聴覚士のインテーク面接では、失語症、構音障害、高次脳機能障害のスクリーニングが必要です。
- STADは言語、構音、非言語検査の3領域が設置された、世界で唯一の特徴を持つスクリーニングテストです。
- 複数の領域をスクリーニングすることで、予後予測の精度が高まります。
- STADアセスメントシートはコミュニケーション機能の把握に便利です。
*STADはあくまで10分の短時間で行うスクリーニングです。確定診断をもたらすものではありませんので、予めご了承ください。
引用文献
- Laska AC, Hellblom A, Murray V, Kahan T, Von Arbin M. Aphasia in acute stroke and relation to outcome. J Intern Med. 2001 May;249(5):413–22.
- Lawrence ES, Coshall C, Dundas R, Stewart J, Rudd AG, Howard R, et al. Estimates of the prevalence of acute stroke impairments and disability in a multiethnic population. Stroke. 2001 Jun;32(6):1279–84.
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